夕日の帰る場所へ

私は今日も生きる

7月26日の手紙 長い一日

カホちゃん

元気にしていますか



カホちゃんの思い出の中で

一番、面白くて忘れられない思い出はこれです。



☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「明日は学校からバスに乗って

京都の本山にお参りに行くんだから


お風呂に入って早く寝たいんだけど

横になったらなかなか動けなくて……。」


  (画像はお借りしました)



高校3年生に一度だけ行く、

本山参りの前日に、


カホは座布団を並べた上に寝そべりながら

動けない動けないと唸っている。


そのうち、うとうととし始め、

お風呂はどうするのだと揺り起こせば

眠たいのだと攻撃的になる。





こういう時はできればほおっておきたい。

だが、このまま朝になってしまったら恐ろしい修羅場が待つと思えば、ほおっておく訳にもいかない。




「じゃあ、今は11時だから4時まで寝て、それからお風呂に入ろう!」と提案すると、

カホは少し考えて納得し、眠りはじめた。



さて、4時になったと声をかけても

揺さぶっても、全く目が覚める気配はない。


だが起こすしかないと何度も何度も声をかける。

その度にカホは「はい。」と返事はする。

だが、動きはない。




30分ほどかけて

やっとカホをお風呂に送る事ができた。


ホッとする。これで何とかなるだろう。


胸を撫で下ろしたのもつかの間、

今度は風呂場から

何の音も聞こえてこないのが気になる。


こういう時は浴槽で寝ている事が多い。


声をかければ「起きてるのに!」と

反対にキレられる場合があるので、

廊下をわざと物音を立てながら歩く。


そうすると少し風呂場から水の音が聞こえる。


何度も物音を繰り返すうちに、

水音は浴槽のチャポンチャポンという音から、


本格的なシャワーの音に代わり、

ああ、何とかなりそうだと

朝食を作り食器に詰めてラップをする。


学校に送る車の中で食べさせるのだ。




やっと車に乗り込んだカホは

「間に合わない。もうダメだ!」と

パニクっている。

本人も風呂で寝るのは計算外だったようだ。


バスの場合、集合時間と出発時間に差があって、

少しくらいはどうにかなるとなだめて車を走らせる。



何とか朝食も摂り、

あとは間に合えばいいと思ったそのとき、


後部座席から悲鳴が聞こえる。

いつも高校に薄化粧をして行くのだが

化粧道具を家に忘れてきたと言うのだ。



当然、戻る時間の余裕はない。

化粧なんかしなくてもいいじゃないかと言いたいが、


本人がしなくてはと思っている以上、

何を言っても無駄なのだ。



コンビニで最低限 必要な化粧道具を買おう

と提案すると、

了承したカホはそこから一番近いコンビニに

走り込み、かごにどんどん投げ入れる。


最低限と言ったのに

どうして今、何色もアイシャドウを買う必要が

あるのか甚だ疑問だが、


今は間に合う事が一番なので、

渡されたかごを微妙な顔でレジに運ぶ。


財布には5,000円しかなかったが、

足りると思っていた。


甘かった。

朝からコンビニでカードで化粧品を買った事は

きっとずっと忘れられないだろう。



やっと学校に着くと、

学校の道沿いにバスが並んでいる。


それを見るとカホは

笑顔で車を飛び降りて走っていった。



嵐は去った。

何とかなった。


家に帰る道にある和菓子屋で

大きなおはぎを買って家に着くなり頬張った。


ホッとした。




バスに乗って京都に行って

本山をお参りして、多少の散策の時間もあるらしい。


きっと楽しかったと帰って来てくれるだろう。






夕方帰って来たカホは

「今日はいいお話を聞いたんやよ!」と

興奮ぎみに話す。


お寺のお説教で、

よく君たちは何かあると『最低、最低』と言うが、

本当の最低はそんなんものじゃない。


容易く最低と口にするのはいかがなものか?

というような話だったという。





「それでね。帰ろうと思ったら、私のケータイがなくてね、みんなに探してもらったの。


みんなが探しながら『最低』って言うから、

何を言ってるの?さっき、お説教で聞いたでしょ?


こんなの全然最低じゃないよ!って

教えてあげたんだよ。」って。


  (画像はお借りしました)



探してもらっててその態度、

お友達は間違いなく

これこそ『最低』と思ったのではないかと思う。




この日の事は出発する前から、

たくさんのアクシデントを越え、

やっとバスに乗って行ったと思ったのに


その先にも数々のアクシデントがあり、

迷惑をかけられた友達があまりにも

気の毒で忘れられない。





いかにもカホらしくて、

何度も思い返しては笑ってしまうのだ。



☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆




忘れられない思い出です。



ありがとうね。




×

非ログインユーザーとして返信する